最終更新日:2026/10/31 | ステータス:TOB実施中(2026/10/23〜12/7、30営業日)。成立は未確定
※「試算」は筆者計算、「所感」は筆者分析。会社開示・報道で確認できない事項は「非開示」「未確認」と明記。
1. 案件サマリー
一言で:アジア系投資会社ヒルハウス(Hillhouse)のファンドが、HHH1合同会社を通じて、Salesforce・ServiceNow・Databricks等のクラウド導入支援を手掛けるサークレイス(東証グロース)を1株2,020円のTOBで非公開化する。前営業日(10/21)終値885円比のプレミアムは+128.25%。筆頭株主のパソナグループ(32.31%)と第2位株主のTQUILA(30.80%)が合計63.11%の応募に合意済み。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表日 | 2026年10月22日(木)16:00 |
| 対象会社 | サークレイス株式会社(東証グロース 5029) |
| 買付者 | HHH1合同会社(業務執行社員・全持分保有者はInspire APAC Holdings Pte. Ltd.。Hillhouse Investment Management, Ltd.が管理・助言・運営するファンドが間接保有) |
| スキーム | TOB → 株式売渡請求または株式併合によるスクイーズアウト |
| 価格 | 普通株式 2,020円/新株予約権(第1・3・4・6回)各1円 |
| プレミアム | 10/21終値885円比 +128.25%、1ヶ月平均926円比 +118.14%、3ヶ月平均865円比 +133.53%、6ヶ月平均779円比 +159.31% |
| 取引規模 | 株式価値 約90.0億円(2,020円×潜在株式勘案後株式総数4,456,145株、試算)。出資上限は92億円 |
| 下限/上限 | 下限2,970,800株(株券等所有割合66.67%)。上限なし |
| ステータス | TOB期間中(12/7満了予定、決済12/14) |
| 業種 | 情報・通信/ITコンサルティング(クラウド導入支援・SaaS) |
| タグ | TOB、非公開化、PEファンド、ヒルハウス、Hillhouse、海外ファンド、応募契約、パソナグループ、TQUILA、大株主売却、MoMなし、入札(複数候補)、グロース市場、Salesforce、ServiceNow、Databricks |
2. 当事者概要
2.1 対象会社:サークレイス
- 代表取締役会長兼社長 佐藤司。2012年11月にパソナグループとTquila International PTE Ltd.の合弁会社(旧商号:株式会社パソナテキーラ)として設立。2020年7月に現商号へ変更し、2022年4月に東証グロースに上場。
- 事業はコンサルティング事業とアオラナウ事業の2セグメント。Salesforce、ServiceNow、Databricks、AWS、Microsoft365/Azure/Power Platform、Anaplanを使った業務変革支援を行う。自社SaaS「AGAVE」(海外駐在員管理、2026/6末で12,700ID超)も提供。連結子会社はアオラナウとCirclace HT。
- 出資・資金提供先にSynthesyとarcbricksがある。arcbricksは保有する転換社債(額面50百万円)の権利行使により、2026/10/30付で連結子会社となる予定(議決権89.20%。10/29開示)。
- 潜在株式勘案後株式総数は4,456,145株。内訳は、6/30時点の発行済株式数4,385,318株−自己株式112株、新株予約権の目的となる株式60,450株、7/1以降に発行したRSU株式3,541株、10/29発行予定のRSU株式6,948株。
| 連結業績(百万円) | 2025/3期 | 2026/3期 | 2027/3期 中間期(速報値) | 2027/3期 予想 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,804 | 4,540 | 2,611(前年同期2,094、+24.7%) | 5,700 |
| 営業利益 | 203 | 266 | △101(前年同期6) | 570 |
| 経常利益 | 204 | 264 | △83 | 570 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 184 | 207 | △55 | 350 |
| EPS(円) | 42.60 | 47.63 | — | 79.94 |
2026/3末の財政状態は、総資産1,868百万円、純資産1,267百万円、自己資本比率68.3%、1株当たり純資産291.52円、現金及び現金同等物536百万円。中間期の損失は、AI関連投資の強化(費用+52百万円)と外注費の増加(+220百万円)によるもの。通期予想は修正していない。配当は無配が継続。中間決算の正式発表は11/12の予定。
2.2 買付者
- HHH1合同会社(東京都中央区日本橋室町4-3-9、職務執行者 菊田知裕、2025/4/10設立、資本金10万円)。
- ヒルハウスは2005年に設立された国際的な投資運用会社で、シンガポールで設立された。18カ国以上に300名超のプロフェッショナルを擁する。日本では2009年に初投資し、近年の投資先にはサムティホールディングス(2024年)、ダイニー(2024年)、NOT A HOTEL(2026年)がある。
- ヒルハウス、公開買付者親会社、公開買付者は、いずれも対象会社の株式・新株予約権を保有していない。
2.3 応募契約(合計2,812,600株・63.11%)
| 応募予定株主 | 株数 | 所有割合 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 株式会社パソナグループ | 1,440,000 | 32.31% | 筆頭株主・その他の関係会社(持分法適用) |
| TQUILA LIMITED | 1,372,600 | 30.80% | 第2位株主・その他の関係会社(アイルランド) |
- 両契約とも、他社が本TOB価格を上回る対抗TOBを開始するか、法的拘束力と実現可能性のある提案を公表し、公開買付者が5営業日以内(または期間満了の2営業日前までの早い方)に同額以上へ引き上げない場合、応募しない、または応募を撤回できる。
- 応募の対価を除き、応募株主に付与される利益の記載はない。
- 佐藤社長(2026/6/11の市場外取得後で279,000株・6.37%)は応募契約の当事者ではない。
3. 取引スキーム
- HHH1がTOBを実施(2026/10/23〜12/7)。
- 成立後にスクイーズアウトを行う。株式等売渡請求の場合は2027年1月下旬頃、株式併合の場合は2027年3月下旬頃に完了する予定。
- 上場廃止。
下限2,970,800株:潜在株式勘案後株式総数4,456,145株に係る議決権44,561個の3分の2(29,708個)×100株。2026/3/31時点の総議決権43,755個を分母にすると67.90%。応募契約分(63.11%)だけでは下限に届かず、少数株主から約3.6%分の応募が必要(試算)。
4. 価格・プレミアム分析
| 基準(10/21=公表日の前営業日) | 株価(円) | プレミアム | 類似事例の中央値(84件) |
|---|---|---|---|
| 終値 | 885 | +128.25% | 43.12% |
| 1ヶ月平均(9/24〜10/21) | 926 | +118.14% | 43.49% |
| 3ヶ月平均(7/22〜10/21) | 865 | +133.53% | 46.73% |
| 6ヶ月平均(4/22〜10/21) | 779 | +159.31% | 49.05% |
比較対象は、2019/6/28以降に公表され、2026/10/14までに成立した上限なしの完全子会社化目的の他社株TOB 84件。MBO、ディスカウントTOB、応募推奨がない事例、憶測報道があった事例、買付者の事前保有が20%以上の事例を除く。
4.1 「885円」と「908円」の違い
- 885円は2026/10/21の終値。TOB公表日(10/22)の前営業日であり、市場株価基準方式の基準日(取締役会決議日の前営業日)でもある。意見表明リリースの正式なプレミアム(+128.25%)はこの885円を基準とする。
- 908円は2026/10/14の終値。ヒルハウスが2,020円を提示した日(10/15)の前営業日にあたる。提案時点のプレミアム(+122.47%)を示すために交渉経緯の中で使われた数値で、公表時のプレミアムではない。同じ提案時点の平均株価は、1ヶ月938円(+115.35%)、3ヶ月857円(+135.71%)、6ヶ月768円(+163.02%)。
- したがって両者は矛盾しない。本DBでは公表日の前営業日を基準とする885円(+128.25%)を採用する。
- なお10/21付の3件の訂正開示は株主名簿上の株数の訂正で、株価とは無関係。TQUILAの常任代理人がINTERACTIVE BROKERS LLCから三井住友銀行に変わり、名義株の一部がTQUILA以外の株主のものと判明したため、TQUILAの保有株数を2026/3/31時点1,534,200株→1,526,600株(35.04%→34.87%)、6/11時点1,380,200株→1,372,600株(31.52%→31.35%)に訂正した。
4.2 バリュエーション指標(試算)
| 指標 | 数値(試算) |
|---|---|
| PBR(2026/3末BPS 291.52円) | 6.93倍 |
| PER(2026/3期EPS 47.63円) | 42.4倍 |
| PER(2027/3期予想EPS 79.94円) | 25.3倍 |
5. 株式価値算定(大手町M&Aアドバイザリー、対象会社依頼、10/22付、FOなし)
| 手法 | レンジ(円) |
|---|---|
| 市場株価基準方式(10/21基準) | 779〜926 |
| 類似会社比準方式 | 393〜949 |
| DCF方式 | 1,498〜2,189 |
2,020円は市場株価基準方式と類似会社比準方式の上限を上回り、DCF方式の中央値を上回る。DCFの基になった事業計画(2027/3期〜2030/3期)には、M&Aに4期累計5,000百万円、DX・AI投資に3,000百万円が織り込まれている。新規事業向けの2,000百万円は織り込まれておらず、シナジーも加味していない。新株予約権の価格については算定書を取得していない。
6. 交渉経緯・タイムライン
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2026/1〜4 | 事業会社と、ヒルハウスを含む複数の投資ファンドに非公開化の可能性を打診 |
| 2026/3上旬 | FA・算定機関として大手町M&Aアドバイザリーを選任 |
| 2026/5/29 | ヒルハウスと金融投資家2社(別途候補先)から意向表明書を受領。価格条件などでヒルハウスが大幅に優越していた |
| 2026/6上旬 | リーガルとして森・濱田松本法律事務所を選任 |
| 2026/6中旬 | 別途候補先1社が正式提案を見送り。もう1社はDDを開始しない意向 |
| 2026/6/25 | 特別委員会を設置。6月下旬以降、ヒルハウスのDDを受け入れ |
| 2026/8/11 | 最終意向表明書 1,541円(8/10終値811円比 +90.01%) |
| 2026/8/21 | 特別委員会が再考を要請し、書面で質問 |
| 2026/8/24 | ヒルハウスがTQUILAに応募を打診 |
| 2026/9上旬 | TQUILA・パソナがTOB後に株主として残らないことを確認。MBO等に該当しない整理となり、諮問事項を「少数株主にとって不利益でないか」に読み替え |
| 2026/9/9 | 特別委員会が再算定を要請 |
| 2026/9/15 | 1,629円(9/14終値921円比 +76.87%) |
| 2026/9/17 | 特別委員会が再検討を要請(上場コスト削減効果、Synthesy・arcbricksへの出資等を考慮すべきとして) |
| 2026/10/15 | 2,020円(10/14終値908円比 +122.47%)、新株予約権1円を提案 |
| 2026/10/16 | 特別委員会が更なる引上げ余地の有無を確認 |
| 2026/10/20 | ヒルハウスが「最終かつ最善の提案」と回答 |
| 2026/10/21 | 株主名簿上の株数に関する訂正開示3件 |
| 2026/10/22 | 特別委員会が応諾して答申。取締役会が賛同・応募推奨を決議し公表。同日、中間期決算速報値を開示 |
| 2026/10/29 | arcbricksの子会社化を開示(10/30付) |
最終意向表明書からの引上げ幅は+479円(+31.1%、試算)。
7. 公正性担保措置
- 特別委員会:社外取締役の松永達也氏・中田勝已氏、社外監査役の名取勝也氏(弁護士)・福田あずさ氏(弁護士・公認会計士・税理士)の4名。いずれも独立役員。委員会独自のリーガル・アドバイザーとして三浦法律事務所を選任した。答申は10/22付で全員一致。
- 利益相反への対応:TQUILAの会長を兼ねるシェイマス・マッキュー取締役と、パソナグループの常務執行役員である板橋光一取締役は、審議・決議・交渉に参加していない。
- 市場調査:複数の候補に打診する入札的なプロセスを経て、最も高い条件を示したヒルハウスを選定した。
- MoM条件は設定していない。成立を不安定にするためとしている。公開買付者は、パソナとTQUILAは利害関係のない独立した投資者なので、本来はMoM条件を満たすとの立場をとる。
- FOは取得していない。TOB期間は30営業日。
8. シナジー・ディスシナジー
- 成長資金の確保:ヒルハウスが長期的に資本を提供する。
- 人材:エンタープライズ案件やテクノロジー分野の人材、経営アドバイザーの紹介。
- M&A:投資計画の約半分を占めるM&Aについて、DD・PMIの支援を受ける。
- 顧客・パートナーの拡大:海外を含むヒルハウスの投資先ネットワークの活用。
- 中長期視点での意思決定:DX・AIへの大型投資を、短期の株価を気にせずに実行できる。
- デメリット:エクイティ・ファイナンスと上場の信用を失う。ヒルハウスの資金支援で補えるとしている。現経営陣は続投する予定。
9. 資金調達・取引総額
- 公開買付者親会社が、決済開始日の2営業日前までに最大9,200,000,000円を出資し、全額をこの出資(自己資金)で賄う。借入れは予定していない(LBOなし)。
- 株式価値:2,020円×4,456,145株=9,001,412,900円(試算)。
- 公開買付代理人は大和証券。公開買付者のFAとリーガルは10/22の両リリースでは未確認。
10. 少数株主への影響
- 応募契約の対象外となる株主は約36.9%(試算)。
- 新株予約権の買付価格は1円。行使価額が2,020円を下回るため、行使して株式で応募すれば実質的な不利益はないとされる。
- 配当は無配が継続しており、配当による影響はない。
11. スケジュール
| 項目 | 日程 |
|---|---|
| 公表 | 2026/10/22 |
| TOB期間 | 2026/10/23〜12/7(30営業日) |
| 決済開始日 | 2026/12/14 |
| 中間決算の正式発表 | 2026/11/12(予定) |
| スクイーズアウト完了 | 2027年1月下旬(株式売渡請求の場合)〜3月下旬(株式併合の場合)の予定 |
12. 所感・論点(筆者分析)
以下は開示内容ではなく筆者の見解。
- 極めて高いプレミアム:前日終値比+128%は類似事例の中央値の約3倍。DCFでは事業計画上の大型投資(M&A・AI)が評価されており、市場はこれを織り込んでいなかった。
- 大株主2社によるエグジット:合弁の起源であるパソナグループとTQUILAが同時に売却する。2社で63%を押さえているため、成立の確度は高い。ただし下限66.67%に届くには少数株主の応募が若干必要。
- 「908円」問題:交渉時の基準日と公表時の基準日が混在しやすい開示。DBでは公表前営業日を基準に統一する。
- 中間期の赤字と同日公表:速報値(営業赤字)とTOBを同時に開示した。株価への影響を事前に織り込ませない構図で、TOB価格の比較基準(10/21終値)は赤字公表前の株価である点に留意。
13. 未確認事項
- 公開買付者側のFA・リーガル・アドバイザー(公開買付届出書で要確認)。
- 佐藤社長(6.37%)の応募意向と、経営陣の再出資の有無(MBO等には該当しないとされる)。
- 公開買付届出書に記載される買付代金の正確な額。
- 別途候補先2社の名称と提案価格(非開示)。
- TOBの結果と、スクイーズアウトの方式・日程。
14. 出典
- サークレイス「HHH1合同会社による当社株券等に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」(2026/10/22)https://www2.jpx.co.jp/disc/50290/140120261022554716.pdf
- HHH1合同会社「サークレイス株式会社(証券コード:5029)の株券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」(2026/10/22)https://www2.jpx.co.jp/disc/50290/140120261022554734.pdf
- サークレイス「2027年3月期第2四半期(中間期)決算速報値(連結)に関するお知らせ」(2026/10/22)https://www2.jpx.co.jp/disc/50290/140120261022554377.pdf
- サークレイス「(訂正)『主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ』の訂正につきまして」(2026/10/21)https://www2.jpx.co.jp/disc/50290/140120261021554181.pdf
- サークレイス「(訂正)『支配株主等に関する事項について』の訂正につきまして」(2026/10/21)https://www2.jpx.co.jp/disc/50290/140120261021554187.pdf
- サークレイス「(訂正)『代表取締役会長兼社長による当社株式取得に関するお知らせ』の訂正につきまして」(2026/10/21)https://www2.jpx.co.jp/disc/50290/140120261021554188.pdf
- サークレイス「代表取締役会長兼社長による当社株式取得に関するお知らせ」(2026/6/12)https://www2.jpx.co.jp/disc/50290/140120260612569961.pdf
- サークレイス「転換社債型新株予約権付社債の権利行使による株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」(2026/10/29)https://www2.jpx.co.jp/disc/50290/140120261029559814.pdf
- サークレイス「2026年3月期 決算短信」(2026/5/14)https://www2.jpx.co.jp/disc/50290/140120260513530116.pdf
※TDnetのURLは約1ヶ月で掲載終了。上記はJPXアーカイブ(www2.jpx.co.jp/disc/)のURL。以後はEDINET・各社IRサイトも参照。
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